「まちと山の文化が循環し、支え合う暮らし」まちは劇場ってなんなんだ会議:オクシズ編(後編)

静岡市がめざす「まちは劇場」は「一人ひとりが主役を演じることができるまち。誰もが自分らしく活躍できる舞台」という、まちづくりのコンセプトです。けれど私たちの「日常」が大きく揺るがされた2020年は、その舞台である「まち」と人との付き合いかたも、大きく変化した一年でした。

2021年1月、アートプロジェクト『きょうの演劇』のヒントを探して、静岡で「暮らしかた・遊びかた」を発明している若い人たちに会いに行きました。静岡の中山間地域、通称「オクシズ」で活動する、原田さんと冨田さんの対談、後編です。

(撮影:大野写真研究室

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コロナ禍で改めて見えたオクシズの豊かさ

―2020年は誰にとっても想定外な状況だったと思いますが、おふたりにとってはどうでしたか?

冨田:実は、新しく始めようと思っていたことの多くは、ストップさせました。やっぱり住んでいる方たちを「外から人が来るんじゃないか」と不安にさせてしまうので。地域と一緒にやろう、と思えば思うほど、住んでいる人たちにいやな思いをさせることだけはしたくない。だからこの一年間は、いろいろと躊躇したことが多かったです。

冨田:でも一方で、うまく付き合っていくしかないのかな、とも思っています。昨年開店したカフェレストラン「BOSCO」も、屋内は完全予約制にしています。もともと海外や東京など外からもお客さんが来る一方で、地域のおじいちゃんおばあちゃんも意外と、パスタを食べに来てくれるんです。そういうところで、あまり居合わせてしまわないほうがいいよね、って。

原田:みんな意外と来るんだね!

冨田:意外と地元の方が来てくれるのは驚きましたね。やっぱりたまには近場で外食したいですよね。テイクアウトを利用する人やお子さんのいるお母さん同士がディナーに使ってくれたりもしています。

―地域の中で経済が回る、遊ぶ場所があるのはいいですね。

冨田:外から来る人だけじゃなくて、地域の人が楽しめる場所になっているのは、嬉しいですね。

原田:私は、会いたい人と会えないのがすごく寂しい一方で、暮らしとしては、ここ(家の窓から眺められる山や川)全部がお庭みたいな感じでした。毎日、川遊びしたり、誰も来ない河津桜のスポットで家族だけでお花見をしてみたり、すごく贅沢な時間を過ごして。「なんて豊かなんだ、みんなこっちに来ればいいのに」って(笑)。

冨田:オクシズは、新型コロナ以降、(交流センターなどの)各施設が稼働率120%らしいですよ。以前より、むしろ人が増えてるみたい。

原田:このあたりのキャンプ場も、けっこう人が来ています。大晦日も河原でキャンプしている人がいて、やっぱりみんな行くところがないんだなって。

冨田:そういう意味では、オクシズに興味を持ってもらうチャンスかなと思います。それを生かすも殺すも僕ら次第。だからコロナでできないことはあるんだけど、準備を念入りにできる部分もある。これで立ち止まっちゃったら、止まるだけで終わっちゃいますけど、チャンスと捉えるようにしていますね。

原田:「森のたまご」に関しては、もともとお外遊びだし、比較的やりやすいんです。昨年4〜5月の緊急事態宣言の頃は、本当に身近な人たちだけで近所で静かにやっていました。子どもたちにとって大切な子ども同士が関われる環境をつくることができて、こういう場をやっていてよかったなと実感しました。

冨田:僕自身は発信するメディアを持っているので「受け入れ体制ができているよ」というのは伝えていかなきゃいけないと思っています。そういう意味で、オクシズ側の受け皿になる公益財団法人をつくりたいという構想もあります。

原田:移住したい人や情報を知りたい人が、どこへ行ったらいいかわからないもんね。

冨田:市役所ではなかなか手の届かない部分もありますし、担当者も短期間で変わってしまう。長い目で見て活動していく組織が必要じゃないかな。玉川だけじゃなく、広い範囲の情報を集約していくことが大事だと思います。

原田:各村に特派員がいて。

冨田:それこそ集落支援員も市の職員として採用するのではなく、そういう組織で受け入れて各集落に派遣するとスムーズなんじゃないかと思いますね。

原田:集落支援員は可能性がありますね。地域の困りごとや、高齢者の見守りなど地域で求められていることをサポートする役割。だからすごく細やかに動けるし、各村にいるので。


オクシズにアーティストが関われる可能性は?

―以前、原田さんからアーティスト・イン・レジデンスの構想を聞いたことがありました。アーティストとの関わりということは考えていますか?

原田:私の夫が美大出身で、アーティストとしても活動しているので、自宅のすぐそばの小屋も買ってアトリエにしたんです。そこで海外から作家を招いて、アーティスト・イン・レジデンスができたらいいなと思っています。子どもたちが異文化と触れ合って視野を広げる機会もつくれるし、私自身、こういう場所からどういう作品が生まれるのか見てみたい。

「玉川くらし」より

大河内には民泊をやっている方もいて、コロナ前は海外からの旅人もけっこう来ていたみたいです。以前、玉川でゲストハウスをつくりたいという方がいて、結果的には実現しませんでしたが、ちゃんとコミュニケーションをとっていたので、地域の方たちも協力的でした。そうやって、外から訪れる人が受け入れられる素地は生まれつつあるのかな、と思います。

―世代かもしれませんが、私の周りではアーティストの仲間が持続可能な活動をしていくために、地域おこし協力隊として移住したり、山奥で子育てしながら福祉施設兼アートセンターをつくったり、といった動きがあります。

原田:玉川で、アートフェスティバルをやりたいなと思っていたこともあったんですよ。どんな形であれ大きなことをすれば反発も起こると思いますが、レジデンスで作家が滞在して作品をつくることは問題ないと思います。

冨田:何をしても反発はあるから、周囲の話を聞くことは大切ですけど、あまり聞きすぎるのもよくないですよね(笑)。いい意味で無視する、というのも大事。それを応援してくれる人も当然いるわけで。

原田:たしかに。玉川の人たちは、何かをやろうとすると応援してくれる人が多いですね。それに冨田くんは、馴染むのがすごくうまい。人柄とか、やり方が上手なんでしょうね。

冨田:敵にさえならなければ、回り回って応援してもらえることもありますから。

原田:私は自分のやりたいことをとにかく突っ走ってやっちゃうタイプ。でも「村ではこうするのよ」って教えてくれるお母さんがいて、活動しながら教わりました。

冨田:僕は田舎で育ってるから、二十年かけて田舎の文化が体に染みついているんです。

―冨田さんのように、両方の文化を理解して翻訳できる人の存在は重要ですよね。オクシズで「こういう風景をつくりたい」とか「こんな場所になっていったらいいな」というイメージが、2020年を経て変わったりはしましたか?

冨田:キャンプブームもそうですが、都会で暮らす人たちが癒やしや自然を求めるという流れはありますよね。これからはオクシズの時代かなと思います。

僕がここに来た一番の理由は、仕事のチャンスがあると思ったからでした。オクシズには令和4年4月までに光回線が通る計画もあるので、賛否はあると思いますが、山で仕事したいという人も増えるはず。テレワークがもっと進めば、移住してくるお母さんたちも働き方の選択肢が増えますよね。

原田:お母さんのシェアオフィスとかあったらいいですよね。光通信は、すごく助かります。きこり社のときはずっとADSLだったから、データ送信に何時間もかけたのに結局送れなかったり、すごく大変で(笑)。

この土間のデスクは「山オフィス」と名づけて夫と私の仕事場になっているんですが、編集とか発信する仕事も多いので、やっぱり有り難い。コロナ禍でテレワークが増えて、家族で一緒にいられるということも、すごくよかったです。

冨田:きっかけとしては、オンラインの整備状況によって教育格差が生まれ始めていたのとワーケーションの促進も大きいですよね。オクシズは田舎だけど、使える技術はちゃんと使って豊かな暮らしをつくっていきたい。でもテレワークやりすぎて全然、外出してないし、人とリアルで会っていない(笑)。

原田:同じ地域に住んでいても、偶然会うことって本当にないんですよ。会いに行かなきゃ会わない。だから、何かしら集える場所があるといいですね。以前、集落のアンケート調査で出てきたアイデアですが、週に一度オープンする市場とか。農協の空き店舗とかを使って、地域のお母さんたちがつくっているお野菜とかお惣菜を売る市場。

冨田:場所さえ貸してもらえたら、すぐにできそう。地域のお母さんの料理教室を開くとか、玉川の生活文化が受け継がれていくことにもつながっていきそうです。

原田:ずっと住んでいる人たちと、移住してきた若いお母さんの交流をつくりたい。それに、みんながまちに買い物に行くということは、大きなお金が村から流れ出ているということ。それが地域に落ちるといいですね。

冨田:地域が豊かになるために、まちなかの経済圏から少し離れた経済圏をつくるというのは大事だと思います。


オクシズとまちを循環する「まちは劇場」

―最後に、「まちは劇場」という言葉を聞いて、どんなことを思い浮かべますか?

原田:これまでは中心市街地でやっていることというイメージで、遠くに感じていたんですけど、今回「まちは劇場」がオクシズや暮らしに目を向けてくれて、山とまちがつながっていく可能性を感じています。山の文化が身近にあるという価値観がもっと広がると、まちの暮らしも豊かになるんじゃないかと思ってきたので、嬉しいですね。

冨田:劇の中にはいろいろな役の人がいますよね。じゃあ自分はその劇の中でどういう役回りなのか? と考えて、その中で魅力ある人間になれたらいいなと思います。たとえば「自分がこの地域でどんな役を演じているのか」と考えたり。

冨田:逆にいえば、少年Aにも少年Bにもなれる。まちでは少年Aなんだけど、オクシズでは主役、という人もいていいと思うんですよ。まちで暮らしているときは「とあるサラリーマン」だけど、オクシズでは劇の中心メンバー、みたいな関わりは、関係人口だからこそできる。

複数の役を持って立ち回るって、面白い生き方じゃないかな。ひとりの人の多様な面を活かす新たな活躍の場、という考え方もできるのかなと思います。

―オクシズで地域のおじいちゃんおばあちゃんも、単身で移住してきた人も、まちから遊びに来る人も、将来的にアーティスト・イン・レジデンスが実現するならここに滞在するアーティストも、普段とは違う「役割」を演じながら子どもと遊ぶ輪をつくれると、楽しいかもしれませんね。
おふたりとも、今日はありがとうございました!

 

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