1月15日(土)放送:『トンネル』/ワークショップ作品

『トンネル』

高橋晃一郎・作

静岡は焼津や藤枝から出入りするときは、トンネルを使わないと、行来できません。
宇津谷トンネル、日本坂トンネル、新日本坂トンネル。
クルマであっという間に行き過ぎてしまう大きなトンネルから、
普段からよく使っている、身近なトンネルまでを想像してください。

例えば、朝、自転車に乗って急いで通り過ぎるトンネル。
ちょっと昔まで使われていて道路に置き忘れたように残っているトンネル。
夕方、散歩の時に犬を連れて通るトンネル。
酔っ払って歩きながらうっかり路地に迷い込んだときに、そっと抜け出るビルの間のトンネル。
あなたの周りには正真正銘のトンネルからトンネルみたいな横丁まで、たくさんのトンネルがあるはずです。

今日紹介するトンネルは、皆さんが想像したトンネルよりも少し、いやかなり小さいトンネルです。それは子供しか入れないトンネルだからです。ここまで聞いたリスナーの中には、ひょっとしたらピンとくる方もいるかもしれません。でも場所はここですよとSNSとかに載せてはいけません。
トンネルを使っている子供達に許可を取っていませんから。
 
しかし、本日は、このトンネルを普段から利用している方にインタビューができました。ではラジオの前の皆さん。しっかりとラジオに耳を傾けて、この小さいトンネルのお話を、お聞きください。

あのすいません。
このトンネルのことを、少しお聞きしてもいいですか?
ええちょっと気になって。
随分昔からトンネルがあるのは知っていたのですが、
いつも此処に来るタイミングを外してしまって。
ああ、すいません。先客がいらっしゃったんですね。
お二人はおいくつですか?なるほど4歳。そちらの方は5歳になる。
お二人ともまだお若いですね。
ああすいません。お邪魔でしたか?
そんなことはない。一緒に入ろうって。
わたしが、中に入ってもよろしいんでしょうか。
そうですか。今日は特別に入ってもいいんですね。
そうですか、せっかくなんで、よいしょっと。だいぶ狭いですね。腰が痛いし、体もぎゅうぎゅうで、こりゃバックもできないし。ズルズルっと前に行くしかないですね。
これは後で、服、全部洗濯に出さないと。
だいぶ目も慣れてきました。なるほど中はこうなっているんですね。
トンネルの真ん中で、道が3方向に別れているんですね。
あれ先に行くねって、これはどちらに行ったら、いいんでしょうか。
いま入ってきたのは赤いトンネルだから右が青いろ、左が黄いろ。
オーイ。皆さんおゝい。
トンネルの中って意外と静かですね
ポトン。ピーポーピーポー。ポトン。ブーン。ブーン。リン。リン。リン。
随分色々な音がよく聞こえるんですね。
なんだかおばあちゃんの声も左の方から聞こえますね。
おじいさんお昼何にしますかって。
いま朝の9時ですけどね。買い物にでも行く都合ですかね。
ここはひとつ、明るい右に行ってみましょう。ヨイショ!
ここは、上から下からっていうんでしょうか。寝転がっているから、前から後ろからでしょうか。頭のてっぺんから足の先まで青く包まれています。
ポトン ポトン
またポトンポトンもっと大きな音がしましたよ。
狭くてだんだん苦しくなってきました。
急いで出ることにしましょう。ハーハー。ガサガサガサ。ドサ〜 
やれやれ、外は明るいですね。
一体あの音はなんだったんでしょうね。
あれ首筋に何か当たりましたよ。
ドングリですね。
今度は頭の上にも落ちてきました
あのポトンの音は、どんぐりが木から落ちた音が聞こえていたんですね。

あぁ お二人とも外でお待たせしちゃって。
今日は、ありがとうございました。
トンネルの中は、面白かったでしょって。
青のトンネルも綺麗だったし。どんぐりの落ちる音もね。初めて聞きましたよ。
おばあちゃんの声もどこかで聞いたような声でしたし。
こういうトンネルは、まだまだ他にも
どこにでもあるんですか?
近くにあるんですか。どこでしょう教えてくださいよ。
また今度ねって。行っちゃいました。近くにあるって。どこにあるんでしょうか。
ちょっと近くを探してみましょうか。

このお話を聞いているリスナーの方がトンネルの中で、
上を見上げて目をつぶっている人を見つけたら、
私かもしれません。
あなたもそっと目をつぶって、そして耳を澄ませてみてください。
それからそっと私に声をかけてください。
そっとですよ。
だって耳を澄まして音を聞いているんですから。


聴き直し

当日の放送は以下You Tubeまたはradkoタイムフリーから聴くことができます。

今回の戯曲を読み上げてくれたのはSPAC-静岡県舞台芸術センターの俳優・大内智美さん。ご自身もふたりのお子さんを育てるお母さんである大内さん。子どもたちに誘われて思わずトンネルに潜り込んでしまう大人の困惑と発見を、なんともリアルに、そしてユーモアたっぷりに演じてくれました。

今回の舞台

これまで『きょうの演劇』の戯曲はプロジェクトチームが書いていました。ですが今月2020年1月は、2021年10月に実施した戯曲の公募でリスナーさんから届いた作品や、ワークショップから生まれた作品をお送りしていきます。第二弾は、静岡市在住の高橋晃一郎さんの作品です。

ちょっとふしぎなこの戯曲。今回登場したトンネルは、作者の高橋さんのお子さんたちが通う幼稚園にあるトンネル型の遊具がモデルだそう。高橋さんは、今回この戯曲を書くために子どもたちにインタビューをしたり、実際に自分も中に入ってみて、この戯曲を書いたそうです。子どもたちのペースに巻き込まれて困ったような、それを楽しんでいるような、飄々とした語り口が魅力的ですね。

放送にあたって、高橋さんからいただいたコメントを紹介します。

「こんにちは。作者の高橋晃一郎です。きょうの演劇に作者として楽しく参加をさせていただきました。今回の題材のトンネルというと、暗くて怖いようなイメージですが、書いているうちに色々なトンネルがあることを思い出しました。トンネルの景色やトンネルの中、その先の風景も想像しながら上演を楽しんでいただけると嬉しいです。」

上演のコツ

自分の身近にある、ちょっと気になるトンネルや、まるでトンネルのような地下道や路地、横丁、雑居ビルの通路などに入ってみてください。そこで、どんな音が聞こえるか、目を閉じて耳を澄ませて聴いてみてください。

またラジオでは紹介しきれませんでしたが、作者の高橋さんからは、上演にあたって次のような場所をおすすめいただきました。

「市役所のところの地下をわたるトンネル。中町の階段地下道、静岡音楽館のAOIの地下の入り口とか、一部で有名な明治トンネルとか、トンネルみたいな雑居ビルの通路とか。正真正銘のトンネルからトンネルみたいな横丁までいろいろ。」

「トンネルを探しに行けなかったリスナーの方に、ちょっとだけ、私から、いい方法をお伝えします。布団やマットレスを丸めてトンネルをこうやって作って、そうそう子供の頃にやったアレですよ。中に入って静かに寝転がってあたりの音を聞いてみてください。そのまま寝ちゃってもいいですけど。そこで聞こえてきた音をあとで私にそっと教えてください。」

……とのことです! 布団のトンネル、これはこれで、楽しそうですね。よかったら(安全に気を付けつつ)、ぜひチャレンジしてみてください。

上演して(やって)みたよ! で、どうすればいいの?

きょうの演劇では「こんなふうにやってみたよ!」という体験談や、感想を募集しています。ラジオネームと、やってみた人は写真を添えてTwitterInstagramで投稿してください。あなたの身近なトンネルや気になるトンネル、トンネルのような場所を写真と一緒にシェアしていただけると嬉しいです。

SNSに投稿する際はハッシュタグ「#きょうの演劇」を添えてください。「きょうの」はひらがな、「演劇」は漢字です。メール kyonoengeki☆gmail.com(☆を@に変えてください)またはフォーム でも受け付けています。

お送りいただいた体験談は、ラジオまたは『きょうの演劇』公式ウェブサイトまたはSNSで紹介させていただきます。

次回予告

来週1月22日(土)は、公募作品『大火の記憶と出会う』をお送りする予定です。どうぞお楽しみに。

 

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