11月6日(土)放送:「山のようちえん」

「山のようちえん」

私が昨晩、夢に見た、ようちえんの話をします。私がいるのは「玉川」という山の、とある原っぱです。山といってもまちから車で30分くらいだから、そんなに遠くありません。

私は山の上に立つ、一本の木です。この土地を何百年も前から見守ってきました。あなたが小さいころに仲良しだった木も、私の友だちです。だから、あなたが昔どんな遊びをしていたか、知っていますよ。今日は少しのあいだ子どもに戻って、私が夢に見た山のようちえんに遊びに来てください。

山のようちえん。そこでは子どもたちが、暮らすように遊んでいます。遊ぶように暮らしています。

川のせせらぎが聞こえる、ぽかんと広い原っぱ。その真ん中に、木で造られた大きな平屋のおうちがあります。お寺のような、広々としてぐるりと縁側のあるおうち。それが、ようちえんの母屋です。屋根からストーブの煙突が伸び、ふわりと暖かそうな煙を吐き出しています。薪が積み上げられた裏庭には、季節の果物のなる樹が植わっています。私はその横で、一番高いところからみんなを見守っています。

縁側の前には畑が広がり、お芋や野菜、豆、お米など、子どもたちの植えた作物がすくすくと育っています。すぐ横には茶畑があって、かくれんぼのときは小さな子たちの格好の隠れ場所になります。

子どもたちが裸足で駆け回っています。泥んこになってお団子を作る子。虫取りに夢中な子。バシャバシャと全身で水を感じながら思いっきり川遊びをしたり、お友達と心ゆくまで喧嘩したり。ときには鳥や鹿の声、木々の葉っぱが揺れる音にじっと耳を傾けます。

園庭ではニワトリが走り回り、羊たちがのんびり草を食んでいます。卵は給食のおかずに、羊の毛は刈り取ってフェルトに。草花で染めて、冬に子どもたちが探検するときのマフラーをつくります。

ご近所のおばあたちが毎日やってきて、昔話を聞かせてくれます。おばあは梅干しの漬け方や、野菜をお日さまの光で干しておいしくする方法の先生です。お手玉や、一緒に台所に立って、おばあが小さいころ食べていたおやつを作ることもあります。
おじいたちとは、竹馬遊びをしたり、子どもたちの座る椅子を作ったり。このあたりは木こりをしていた人が多いから、大工仕事はお手の物です。

新茶の季節には、みんなで茶もみをして、庭でお茶をいただきましょう。夏には筏づくりや、鮎釣り。年に一度のお泊り会は、ろうそくの灯りでお話をしましょう。降るような星空の下、おじいの語るこの土地の物語に耳を傾けるうちに眠ってしまう子もいます。私はそんなようちえんの、お庭の木になりたい。

さあ、山のようちえんにようこそ。あなたが子どもでも大人でも、山に住んでいてもまちに住んでいても、きょうは靴を脱いで、土の上に裸足で立ってみてください。草の上に座って、いつも家の中でしていることを、外でしてみてください。朝ごはんを食べること。お茶を淹れて、お気に入りの器で飲むこと。腹ばいになって本を読むこと。料理をすること。縫い物をすること。暮らしは、一番の遊びなのです。


聴き直し

当日の放送は以下You Tubeまたはradkoタイムフリーから聴くことができます。

今月(2021年11月)の戯曲を朗読してくれているのはSPAC-静岡県舞台芸術センターの俳優・本多麻紀さん。山のようちえんを夢見る「この土地を何百年も見守ってきた一本の木」の語りをいきいきと、温かく表現してくれました。

今回の舞台

今月のテーマは、オクシズと呼ばれる静岡市の中山間地域。静岡市の面積の80%を占めるエリアでありながら、人口は市の住民の約5%に過ぎません。ゆったりとした時間が流れ、昔ながらの生業や生活、そして神楽をはじめとする独特の文化が今も生きています。

オクシズとひとことで言っても、その中には立地も個性も異なる、複数の地域が含まれています。安倍川や藁科川、大井川、興津川など、異なる川の流域にさまざまな集落が点在しているのです。

>>オクシズ(静岡市)

そんなオクシズの中で、今回の舞台となったのは「玉川」。「中河内川」という安倍川の支流沿いにあり、比較的、中心市街地に近い集落です。かつてはお茶や林業で栄えた地域で、オクシズの中でもUターンや移住をした若者が元気に活動しています。まちから車で30分という距離に、自然と共生する豊かな生活文化が生きているのが、静岡で暮らす魅力のひとつではないでしょうか。若い茶農家さんがいたり、カフェレストランウイスキー工場なども生まれ、行楽地としても人気のあるところです。

今回お話を聞いたのは・・・

今回、戯曲をつくるにあたってお話を聞いた原田さやかさんは、玉川に移住して子ども二人を育てながら、玉川はもちろん市街地に暮らすお母さん・お子さんも自然の中でのびのびと遊べる「自然保育 森のたまご」という活動をしています。

「自然保育 森のたまご」の様子

原田さやかさんの活動については、過去にきょうの演劇の特集でもインタビューをしていました。

>>「まちと山の文化が循環し、支え合う暮らし」まちは劇場ってなんなんだ会議:オクシズ編(前編)
>>「まちと山の文化が循環し、支え合う暮らし」まちは劇場ってなんなんだ会議:オクシズ編(後編)

子どもにとっては、大人がしている生活の所作を真似することが、何よりの遊びだったりします。暮らしはそのまま、遊びに通じるのだと思います。

さやかさんには、10年前から玉川につくりたいと思い描く「山のようちえん」の構想があります。今回はそのスケッチを元に、玉川に立つ一本の木が夢見る風景として、戯曲を書かせていただきました。

これから「山のようちえん」の一部になる予定のフィールド(構想)

実は「山のようちえん」は今、いよいよ実現に向かって動き始めています! 興味のある人や仲間になりたい人は、「森のたまご」にアクセスしてみてはいかがでしょうか。

■原田さやかさんのブログ
「玉川くらし」
■「自然保育 森のたまご」
Instagram
Facebookページ

上演のコツ

まずは裸足で土の上に立ってみてください。案ずるより産むが易し!…とはいっても「面倒くさいなあ」とか「寒いなあ」とか、思いますよね。でも、いろいろ考えてしまって結局やらずに済ませることって、すごく多いと思うんです。だからこそこの戯曲では、考えすぎずに、思い切って身体を動かすことをおすすめしたいです。

そして、もしも「やってみたいな」という気持ちがムクムク湧いてきたら。家の中で普段やっていることを、外に持ち出してみましょう。自然の中でなくても、住宅街の公園でも、まちなかのベンチでもOKです。できれば、自分が普段から好きなこと(ごはんを食べる、お茶を飲む、本を読むなど…)がいいですね。

戯曲に描かれているような自然を体験しに、玉川を訪れるのもいいと思います。土の上に裸足で立ってみたり、家の中でしていることを草の上や河原でやってみたりするには、ぴったりの環境です。玉川へ行く際は、地元の人たちに道で会ったら挨拶をする、人の家の敷地内に入らない、ゴミを持ち帰る(当たり前ですね)といったマナーにも気をつけたいですね。

上演して(やって)みたよ! で、どうすればいいの?

きょうの演劇では「こんなふうにやってみたよ!」という体験談や、戯曲の感想を募集しています。ラジオネームと、やってみた人は写真を添えてTwitterInstagramで投稿してください。どんな風景を想像したか、ぜひ教えてくださいね。

SNSに投稿する際はハッシュタグ「#きょうの演劇」を添えてください。「きょうの」はひらがな、「演劇」は漢字です。メール kyonoengeki☆gmail.com(☆を@に変えてください)またはフォーム でも受け付けています。

お送りいただいた体験談は、ラジオまたは『きょうの演劇』公式ウェブサイトまたはSNSで紹介させていただきます。

次回予告

次回11月13日(土)は、安倍川流域最奥の温泉地・梅ヶ島を舞台に、神楽や地域の生業を描いた戯曲をお送りします。どうぞお楽しみに。

また、きょうの演劇では皆さんの考えた戯曲も募集しています。選ばれた作品はラジオで放送されますので、詳細をご確認の上、ぜひふるってご応募ください。

 

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